転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


13 動物と魔物って何が違うの?



 なぎ払いや斬り上げなど、一通りの太刀筋を見てどんな振り方をしても僕がちゃんと刃筋を立てられると知ったお父さんは、基礎を飛ばして僕に撃ち込みの練習をするようにと言ってきた。

「いいかい、お父さんが剣を動かすから、それに向かって斬りつけて来るんだ。その時もちゃんと刃筋を立てることを忘れないようにね」

「うん。ぼく、がんばるよ」

 もうショートソードがうまく使える事は隠しようがないから、先の心配は棚上げして練習に集中することにした。
 この練習を続ける事によって大きくなる前に、見習い剣士を習得できるかもしれないからね。

 カン、カン、カン、カン。

 お父さんが左右に動かす剣を目掛けて、僕は一生懸命ショートソードで斬りつける。
 でも、これが結構難しくて。

 スカッ。

 うまく振ったつもりでも、たまに空振りしてしまうんだよね。
 どうやらスキルがあるからと言っても、それだけではゲームのように自在に攻撃ができると言うわけじゃないみたいなんだ。

 武器の扱い自体はスキル依存でなんとかなるんだろうけど、実際に攻撃したり防御したりする時は僕自身がどう動くかを考えないといけないから、こればかりは反復練習をして身につけないとダメみたい。
 実際、お父さんがちょっと剣を動かしただけでも、途端に当てるのが難しくなるんだよね。

「ルディーンは当てる事に一生懸命で父さんがどう動かすかを予想してないだろ。よく見て御覧、剣が動く前に何か無いかな?」

「うごくまえ?」

 お父さんにそう言われたから、僕はショートソードを振りながら剣をよく見たんだ。
 だけど特に何かがあるようには見えなくて、おまけにその何かを探すのに集中しすぎてさっきよりも外す回数が増えてしまった。

「う〜ん、才能があると言っても剣を握るのが今日が初めてのルディーンに、そこまで求めるのは流石に無理があったかな? よし、あせっても良い事はないからやっぱり今日は誰もが初日にやる打ち込みだけにするか」

「え、やめちゃうの? ぼく、けんがうごくまえのなにか、まだわかんないのに」

 お父さんの言葉に、僕は抗議の声をあげる。
 だって剣が動く前に何があるのか僕にはまださっぱり解らないけど、無理だったかと言われると流石に悔しいもん。
 やめるにしても、何かヒントを掴んでからじゃないと。

「そうか、確かにここでやめるのはルディーンも納得がいかないかもな。ならもう少し続けるか」

「うん!」

 僕の抗議の声と悔しそうな顔を見て、お父さんは今の練習を続ける事にしてくれたみたい。
 でも同時に今のままでは何時までやっても埒が明かないと思ったんだろうね。

「でも、このまま続けても今日中に何かを掴む事はできないだろうから、お父さんから少しだけヒントをやろう。いいかルディーン、この剣に攻撃を当てようとするのなら剣をずっと見てちゃダメだ。剣が勝手に動いている訳じゃないからな」

 そう、僕に少しだけヒントをくれた。

「けんをみてちゃだめ?」

 でも当てるのに目標の物を見ていてはダメってどういう事なんだろう? 動きを見ないと当てられないと思うんだけど……ん? 待って、さっきお父さんはなんて言ってた?

 剣が勝手に動いている訳じゃないからな。

 そうか、剣を見てちゃいけないんじゃなく剣だけを見ちゃいけなかったのか。
 それに気付いた僕は視野を少し広げてお父さんの腕も一緒に見るようにしたんだけど、剣が動く前に何か変わったことがあるようには見えなかった。
 う〜ん、どうやら腕に前兆が現れる訳ではないみたいだ。

 ならもう少し範囲を広げて胴体を、と思った時にふと動くものが僕の目に映った。
 それは胴体の上にある顎、剣を動かす前にお父さんは顔をほんの少しだけ動かす方に向けていたんだ。

「おとうさん、けんをうごかすまえに、そっちのほうをみてたのか!」

「おっ、気付いたか。偉いぞ」

 お父さんはそう言うと、嬉しそうに僕の頭をガシガシとなでた。
 その力が強すぎて僕はお父さんの手が左右に振られる度に頭を振り回されたけど、褒められている事は解っているから笑顔でなすがままにされていた。

「ルディーン、今のお父さんがやったみたいに解りやすくはないけど、生き物は此方に飛びかかろうとする前に一度体を沈めたり、左右に飛ぼうとする前にその反対側の足に体重を乗せたりと、体を動かす時には必ず何かしらの予備動作があるんだ。だから狩りをする時は獲物をよく観察しなさい。そうすればある程度の動きが解るようになるからね。これは行動予測と言うものなんだけど、これができないと魔物どころか、普通の動物さえ狩る事ができないんだよ」

「まものどころかってことは、まものもどうぶつとおなじなのか」

 動物にそんな予備動作があるのは知っているけど、魔物もそうなんだ。
 ドラゴン&マジックオンラインでは魔物が攻撃する時にそんな表現は無かったから、てっきり魔物にはそんなものは無いと思ってたよ。
 と、そんな感じで魔物にも予備動作があるんだなぁなんて感心していたら、お父さんがちょっと驚いたような顔をした。

「おや? ルディーンはよく本を読んだり勉強をしたりしてるからてっきり知っているものだとばかり思っていたけど、意外だな」

「なんのこと?」

 何か僕の知らないことがあるのかな? そう思って聞き返すと、お父さんから驚くべき話を聞かされた。

「魔物と動物は、元は同じものだぞ。例えば一角ウサギは野うさぎが高濃度の魔力を浴び続けて変質したものだ」

「ええっ!?」

 変質したって、だって大きさ自体かなり違うじゃないか! たしか一角ウサギは中型犬くらいの大きさだったよね。
 と言う事は普通の野ウサギの大きさから考えて、魔物に変質して倍以上の大きさになったって事? 魔力を浴びるだけでそんなに巨大化するの?
 それに本来はないはずの角まで生えてるけど、野うさぎが環境に合わせてそういう進化をしたと言うわけじゃなく、野うさぎそのものが魔力によって魔物に変質したものだと言うの?

「そんなに驚くという事は本当に知らなかったのか。そもそも、魔物と動物の違いって何か解るか?」

「ちがい? ……えっと、どうぶつよりまもののほうがつよかったり、きょうぼうだったりするとかかなぁ」

「いやいや、強さで言えば一角ウサギより普通の狼や熊の方が強いだろうし、そもそも一角ウサギは草食だから、此方から攻撃をしなければ襲われる事も無いぞ。よく考えて御覧」

 そうなの!? って、そう言えば一角ウサギはドラゴン&マジックオンラインでもノンアクティブだったっけ。

 最初に物語がスタートする村周辺にいるモンスターは、チュートリアル的な意味もあってか殆どが此方から攻撃しない限りプレイヤーを無視して行動するという事を思い出して、僕は納得した。

 でも、それなら魔物と動物の違いってなんだろう? ゲームならお金とかアイテムを落とすって答えるんだけど……あっ!

「そうだ、ませきだ。まものにはませきがある!」

「おっ気付いたか。そう、動物と魔物の違いは魔石が体内にあるかどうかなんだ。では魔物にはどうして魔石があると思う?」

「えっと、さっきおとうさんがいってたよね。まりょくをあびたから」

「正解だ」

 僕の回答を聞いて、お父さんは満足そうに頷いた。
 そうか、動物が魔力を浴びると体内に魔石が生まれて、それが元で変異したのが魔物なのか。
 あれ? でも魔力ってどこにでもあるよね、なら全ての動物が魔物になっていないとおかしくない? それこそ人間だって。

「おとうさん、まりょくってどこにでもなるよね? ぼく、まほうがつかえるからわかるけど、いまここにだってあるもん」

「ああ、ルディーンには高濃度って言っても解らなかったか。この世界には色々な所に魔力が物凄くいっぱいある場所があってな、その場所の近くに長期間いると動物が魔物に変質するんだよ。そんな場所の事を魔力溜まりと言うんだ」

「まりょくだまり」

 ここからお父さんが話してくれた事は、僕にとってとても大切な事だった。
 それはその内容が、この世界で生きて行くのに絶対に知っておかないといけない事だったのだから。




 ゴールデンウイークは29日から5日まで殆ど家にいないので、来週は更新できません。
 次回更新は5月7日です。


 ボッチプレイヤーの冒険が完結したら、この作品は別の場所に投稿を開始します。
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